むかし、未来の見える時計屋さんがいました。
その時計屋さんは未来を指す時計を作りましたが、
ある貴族に自分の未来を教えてくれと言われ、
お屋敷のはずれの塔を与えられ、
時計を作っていました。
「未来がわかるなら未来を教えて」
坊ちゃんは言いました。
「坊ちゃんの未来も、坊ちゃんが感じていること、見ていること、
数えきれないほどの情報があります。
それはたくさんすぎて、とても伝えられないので、
時計にしているんです」
時計屋は答えました。
「これを見てください、あなたのお父さんの未来の時計です」
塔の中は足の踏み場もないくらい時計で埋め尽くされていました。
「その技術をもとに、ご主人が未来のある点を示せというたび
私は時計を作りました。それがこの塔にある膨大な時計の数々です」
「私の考えではぼっちゃんの未来や現在でさえもこのような膨大な時計が、表すには必要です」
坊ちゃんは時計の多さに驚いて、完全に怖くなってしまいました。

時計職人は続けます。
「この塔にある時計はもうすべて過去になりましたが、
未来のために作った時計は増え続けるでしょう」
「だからこの塔は時計が増え続けます」
坊ちゃんは悪夢だと思いました。
時計屋は続けます。
「そう、私が坊ちゃんをここへ招待したのは、私がここを出るには坊ちゃんが必要だったのです」
「さあ、私に坊ちゃんの現在を教えて」
ぼっちゃんは恐ろしくなり塔から逃げました。
それ以来、成人するまで坊ちゃんは塔に寄り付きませんでした。
しかし、父が塔に出かけるたびに考えていました。
「時計屋さんはあそこから逃れたいんだ」
結論はこうでした
「父の収集欲に、おじさんが答える必要がないってだけじゃダメなのかな」
坊ちゃんは成人してしばらくして、
塔を訪れましたが、時計屋さんは夢のように消えていました。
ただ、たくさんの時計が並べられた塔は、前にも増して、
時計が増えていたのでした。
「あの時計屋は妖精か何かの類だったのだろうか。ぼくが結論を得たから
時計屋さんは逃げれたのかな?」
家に帰ると父もいません。
小間使いに父はどこへ行ったかと尋ねると、
「坊ちゃん、お父様はあなたが小さい時に旅に出て死んでしまったでしょ」
坊ちゃんはそういえば、父と食卓を囲んだり、
話すこともなかったなと思い返しました。
しかし、塔に行く父はみかけていた・・・
坊ちゃんがもう一度塔を見に行ったら、
塔が丸ごとなくなって、父の墓だけがツタの下にあるのを見つけただけでした。
終